感想 - OVA『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 星霜編』 - 二人とも常にマジレス

いや、面白い。面白いし、話は重い。原作の悲劇的要素を全部集めてきて煮〆たような具合。

どんな具合かを簡単に説明すると、基本線は原作と同じ。人斬りとしての経歴と、妻を殺したあやまちとを過去に持つ緋村剣心。その剣心を受け止め、愛する神谷薫―とこの構図は同じ。

ただし、原作より二人の性格が悲愴だ。特に剣心。普段の言動からして、まずもって笑わない。つねにマジレス。たとえ少し笑ってもそれは本心からではなく、「笑っておかないと薫に心配されるから」という理由から「笑うようにしている」という描写になっている。ふとした言葉から無常観、経歴ゆえのリアルな生死観などが読み取れる。

そしてそんな剣心の様子から、「この人の苦しみや痛みを分かち合いたい」と強く願う薫―。

剣心の内面は、外面以上に複雑な様子になっていて、過去のあやまちを実の真摯に受け止めて、どう贖うか、贖えるのかを問い続けている。深い仲になるほど、見えづらかった剣心の内面が見えてきて、罪を真剣に贖おうとする姿にますます自分が支えなければという思いを強くする薫―。

何と言うか、もう悲愴のダブルスパイラルですよ。剣心は常に過去と対峙し続けているし、薫は剣心を救おうと文字通りの懸命。悲愴に生きる剣心。悲愴さから救おうとする薫、だがその姿も悲愴と。悲劇にズッポリ嵌った状態から話が始まる。

話が収束していくにつれて、二人とも痛々しい姿になっていく。剣心はただいるだけで痛々しい様子に。薫は悲惨な境遇になりながらも、無意識に笑顔を見せる。その笑顔は剣心の心をほぐすために身に付いたものなのだ。

そしてその流れのままラストシーンと。

もう製作から何年も経つので今更だけど、これは原作の明るい要素が好きなファンには到底受け入れられないだろうなあ。面白いけど、楽しくはないもん。クスッと笑える場面みたいなのは、初めから終わりまで1秒も無かったからね。検索して少し見てみると、反発したファンも少なくなかったようで、やはりという印象。俺は好きだけど。

ついでに言えば、製作されたOVAの内の片割れ『追憶編』の方は渋い作りで面白かった。派手さを抑えた幕末劇という感じ。『星霜編』が漫画のアニメ版なら、『追憶編』は時代物映画。漫画チックな描写を排したつくりで、こういうのもアリだなと感じた。いま比較すると『追憶編』の方が見るのは気楽だな。


(注…mixiに書いたものを転載)